【Blog】 夜勤で出会った患者さん(後編)

カンボジア正月の夜勤の日に出会った患者さん、そして、一つひとつの命に精一杯向き合うこと。
後編をお伝えします。

正月が一夜明けて、時計の針が朝6時半を指そうとしたとき、
頭部から出血している子どもを抱き抱えてお母さんが入ってきました。

バイク3輪車(カンボジアではトゥクトゥクと呼ばれる乗り物)に乗っていて事故にあったとのこと、左側頭部に大きな損傷を受けており、骨が見えかけている状況でした。

急いで止血をしながら心拍を確認。血中の酸素濃度の値が低く、すぐに酸素投与が必要な状況でした。男の子は暴れながら泣いていると思ったら、急に静かになったりと、意識レベルや心拍・血圧なども変動が激しい状態でした。

とにかくより詳しい検査を行えるプノンペンの病院に搬送することが第一優先だと判断して、救急車の要請をしながらここでできる限りの対応をしました。
その後、男の子はプノンペンの病院に搬送され、無事に命をとりとめたと連絡がありました。

 

正月の夜の病院には、飲酒運転の事故や酒に酔って喧嘩する大人などが運ばれてくるのを想定していましたが、今回は子どもが2人いて、2人とも交通事故でした。

交通事故が発生したときにどうするか。
このあたりは日本とカンボジアに大きな違いがあるかもしれません。

日本であれば119で救急車を呼んで、病院に着くまでの間に一次救命処置ができます。しかし、カンボジアは救急車を呼ぶのに1回30ドル(日本円で約3500円)とお金がかかります。救急車の数も限られているので、すぐに来るとは限りません。

そんな現状から、今回のケースのように家族が直接連れてくることが多いのです。

国の救急搬送システムや道路などのインフラ整備、渋滞などの交通事情、国民の一次救命処置への知識や理解の普及など、さまざまな課題が重なって事故発生から30分以上経っても何も処置をされずに病院に運ばれてくるケースが後を絶ちません。

私は正月の夜、亡くなった少女を前に泣き崩れる家族に声をかけることもできませんでした。色々な感情が溢れてきて涙が止まりませんでした。
まだ6歳の1人の女の子の人生が終わってしまったという事実だけが鮮明に記憶に残っています。

そして、気づかされたこともたくさんありました。
医療者と患者の出会いには、きっとそれぞれ意味があるのだと思います。
一つひとつの命に精一杯向き合うことが、今の私にできる唯一のことのような気がしています。