【Blog】 生まれる命、去りゆく命

この3日間で目の当たりにした、「命」が生まれる瞬間、そして去りゆく瞬間のお話です。

赤ちゃんを取り出す医師の真剣な表情。取り出された赤ちゃんを大事に抱える助産師の険しくも優しい表情。生まれてきた我が子と初めて対面して、思わず頬を緩めたお母さんの表情。そして、この世に生を受け、目を閉じたまま産声を上げる赤ちゃんの表情。1つの小さな部屋の中、たった数十分の間で、様々な表情を見ることができました。


日本から、ここカンボジアこども医療センターに来て2週間が経ちます。
日々の医療現場は刺激的な毎日で、事務スタッフとして様々な出来事を経験します。小さな体で病気と闘う子どもたち。何時間もかけて病院に来るおばあちゃん。患者さんのために走り回るスタッフ。院内には多くの人がいますが、誰にも共通して言えることが、「命」を大切にしているということです。

私はこの病院で初めて人の出産に立ち会いました。冒頭に記したのは、その時の様子です。帝王切開によって産まれた新しい命の周りには様々な表情がありました。険しい顔、優しい顔、安堵した顔、表情はちがっても、今まさに産声をあげたばかりの命を祝福する心は皆同じように感じました。

お母さんの処置も終了し、手術室に和やかな空気が流れました。人の命が生まれる瞬間を目にし、言葉では表すことのできない温かな気持ちになりました。

その一方で、去りゆく命もあります。命の誕生を目の当たりにした2日後、その瞬間に立ち会いました。医師の懸命な処置も虚しく、小さな命が終わりを迎えました。足をさするお父さん。しかし、愛する息子は反応してくれません。医師も看護師もその他のスタッフも誰も何も発しません。お母さんの泣き声と、機材を片付ける音だけがナースステーションに響いています。皆のその表情に色はなく、ただただ哀しみだけが溢れていました。
お父さんとお母さんが、息をしなくなった息子を抱え、車に乗り込みます。誰もが喪失感でいっぱいの中、お父さんとお母さんは去り際、車内から我々に頭を下げ、手を振ってくれました。誰よりも悲しいはずのご両親が見せてくれた最後のその行動に、胸が熱くなりました。そして、たとえ救えない命があっても、たとえ医療者ではなくとも、常に一人ひとりの命と向き合い続けていくことが大切なのだと、ご両親の姿と「去りゆく命」が教えてくれた気がしました。

今日もこの病院では、いくつかの命が生を受け、いくつかの命がその終わりを迎えています。「もっと環境が整っていれば・・・」「もっと多くの医師がいれば・・・」そういった思いがよぎることも、実際に少なくはありません。

それでもジャパンハートは目の前の命に真摯に向き合っています。限られた環境の中でも、生まれる命がその光を得られるよう。去りゆく命がその人生を少しでも良かったと思えるよう。この病院のスタッフ全員が、一人ひとりの心に医療を届けています。

2つの小さな命と、目の前の命に精一杯向き合う医療スタッフの背中が教えてくれた「医療の届かないところに医療を届ける」という、ジャパンハートの理念をこれからも現場に届けていきたいと思います。